和本

心に残る風景

1999年4月から2004年4月まで発行の隔月刊紙「えんじゅ」に掲載した31名の方々による心に残る風景を和本に仕立てたものです。大変すばらしい内容と美しい装丁の本です。

装丁:A5版 82頁 全頁金閣殿和紙使用 表紙京友禅布 

定価:2520円(本体2400円・税120円) 送料:200円

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目次

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表紙は以下の二種類用意しました。中身は同じです。

1:京友禅桜色地花文様

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2:京友禅萌葱銀杏葉文様

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題紙は倉敷和紙の丹下哲夫氏の手漉き和紙です。

 

内容見本

 

夜光鳥の舞う故郷

大阪 喜納マンチ 

 私は沖縄本島本部村謝花で生まれました。生家は集落の東端で本部富士に向かって両手を広げると、右の手は瀬底の海で、左の手はクンザン岬の見える具志堅の海です。

 日が沈むと子供達は誘い合って村の高台に集まります。星がきらきらと輝き、流れ星の数を数え合います。すると突然、加津森の水源地の辺りから、蛍光色に光った鳥がすうっと舞い上がり、夜空を切って私たちの頭上へと飛んできます。そして海の方へ向かったかと思うと、瀬底の海に下り、螢のような無数の水滴を飛ばし、再び空に舞い上がると、クンザン岬の方角からまた一羽飛び来て、二羽の夜光鳥がからみ合うように夜空で乱舞します。やがて乱舞し終わった夜光鳥は二羽連れ合って伊江島の方角に消えてゆきます。夜光鳥が消え去ったあと私の瞼の中ではいくつもの真珠の玉がふわふわと夜空に落ちて消えてゆきました。

 子供達は毎晩のようにこの光景を眺めに高台に登りました。

 沖縄を離れて六十数年、八十三歳になった私の脳裏に今でも鮮明にこの光景は浮かびます。雨上がりの朝すきっと立った本部富士、その雄姿を前にゆったりと流れゆく砂糖工場の白い煙。この光景も今はもう幻となってしまいました。

(一九九九年四月えんじゅ一号)

 

雪解けの空き地に立つ白モクレン

札幌市 阿部昌子

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今年は雪の多い冬でした。隣りの空き地の雪山に、誰が作ったのか、雪だるまの親子が仲良く並んでありました。春の日射しに、解け出した雪だるまは、ザラザラ膚の親子地蔵にその姿を変えて、日に日に小さくなって消えてゆきました。それを待っていたかのように、蕗の薹の一群が一斉に顔を出しました。雪解けと競うのか、短い春を追いかけるのか、ぐんぐん背伸びをしてゆきました。

 一握りの雪になった頃、蕗の薹を覆って立つ一本の白モクレンが白揚羽を宿したかのように、純白の花を咲かせました。最後の残雪が消えた日、その白モクレンを愛で育んでいた一人の老婆が静かにこの世を去りました。裏の空き地に春が訪れるのを見届けると、冬とともに去りました。

 四月二十七日のことでした。

 初夏に向かうその空き地には、雪解けの水は消え、若い緑の蕗の薹が地表を覆い、色褪せた白モクレンの花びらがいまなおしがみついています。そして、空き地の中央には、新芽を吹いた木の切り株だけが、墓標のようにポツンと雨に濡れて立っています。

          (一九九九年六月えんじゅ二号) 

 

 

中田島砂丘  

東京 中村淳一 

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 静岡県浜松市に、中田島砂丘という砂丘がある。日本で三番目に広い砂丘ということだが、全国的にはあまり有名ではないようだ。

 僕が通っていた小学校では、春の遠足といえば中田島砂丘と決まっていた。僕が住んでいた町から砂丘まではおよそ一里の距離があり、小学生にとってはまさに「遠足」だったわけだが、そのわずか一時間か二時間の間に体験する友達との会話や道端に咲く花や雑草は、あふれるような好奇心と、発見・成長の過程であり、砂丘に向かってまっすぐに伸びる通称中田島線は、まさに永遠に続くかと思われる人生そのものだった。

 今もたまに帰郷すると中田島を訪れるが、大人にとっての一里は、あくまでももののたとえだけれども、具体砂丘にすぎない。別に子供の頃がよかったといっているわけではない。どうしようもない時の流れを憂いているわけでもない。時は過ぎ、故郷は遠くなり、かつて好きだった人の顔も、声も、仕種も、信じられない勢いで形を無くし、手から零れ落ち、そして風に舞っていく。忘れたくない想いも、忘れるはずもない想いも、近づけば近づこうとするほど消えていく。それにも関わらず、僕は自分の育った海だけははっきりと思い出すことができる。だれもいない真夏の砂丘と波の音。照りつける太陽に焼かれた草と、アスファルトのにおい。

 また、必ず訪れようと思う。幼い頃の思い出を忘れないためでなく、かつてそこに想いがあったことを覚えているために。    

    (一九九九年八月えんじゅ三号

 

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